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知る喜び

  • 2011-03-09 (水) 0:40
  • 日常

面白い子だ。

教え子だった三塁のKが来訪。顔を合わせるのは1年半ぶりだ。大学入試も終わり、春休みという事もあって遊びに来てくれた。全力で打ち込んでいたソフトボール部も引退し、随分体育会系の印象が無くなっていた。ちょっと寂しくもある。それでも野球やソフトボールは大好きという事で盛り上がった。

三塁のKは、その名の通り三塁を守っていた。このポジションは右打者の打球が一番強く早く飛んでくる『ホットコーナー』で、内野手の中では一番度胸を必要とするポジションだそうだ。特にソフトボールはダイヤモンド自体が小さい(=打者との距離が短い)ので、「一瞬でもビビったら、守備どころか立ってるだけでも怖くなる」らしい。知らなかった、てっきり遊撃手が一番怖いモンだと。

そう言えば前回会った時に、ちょっと浮いた話を聞いたので、今はどうなっとるんやとオッサン根性丸出しで聞いてみたら、そこを皮切りに色んな話が噴出した。それと同時に、この子のとんでもない背景を知る事になる。話は幼少時、東南アジアから始まる。Kは幼い頃、オヤジさんの仕事でインドネシアに住んでいたらしい。現地の学校に通い、話す言葉はインドネシア語。それが『インドネシア暴動』により帰国を余儀なくされる事に。毎日軍の戦車を見たり、投石を見たりしていたそうだ。そうか、その頃のイメージがあって球を投げるスポーツに興味が、と言ったら怒られた。スイマセン。

日本に帰ってからは各地を転々とし、京都に腰を落ち着ける事に。親御さんの教育方針もあって、テニス、陸上(中距離)、ソフトボールとスポーツ漬けの毎日を送ったそうだ。この経緯や理由が、子供とは思えないくらい明確かつシビアなのだが、諸事情により割愛。少なくとも同じ環境に僕が居たら、逃げている。

学業のほうもバリバリの進学校に通っていたのだそうだが、ゆとり教育の方針転換と時期が重なり、ただでさえ厳しい勉強が毎日7限、3年間続いたそうだ。脱落者も多かった(!)らしく、K自身もかなり追い込まれたらしいが、ソフトボールのお陰で何とか耐えきったらしい。それはそれで大変な苦労があった筈なのに、Kはあっけらかんとしている。

そんなKの将来の夢は、ホテルマンか旅行会社に勤めて、海外勤務する事。それも東南アジア、インドネシアなどだ。この辺りの話の流れから、この子の視点が子供のそれではなく、完全に大人の、それも客観的なものである事が解り始めて鳥肌が立った。ずっと冗談交じりに話をしていた僕だが、気が付いたら大人同士の会話にシフトしている。話す事で、彼女が色んな事を得ようとしているのが解る。僕の向かいに座っているのは、本当に18歳か。豊富な人生経験と『完全な一人っ子』が、Kを早熟にさせたのだろうか。

「話してる内に気付く事ってあるやん?喋ってから、自分が考えてた事に気付くっていう感覚」、これ、今日一番驚いた発言だった。自分が持っている漠然とした思考が、会話を通じて形を成していく、あの感覚。決して口から出任せを言っているのではなく、自分の内側からスッと湧き出る、ストレートな思考。僕がこういう感覚に気付いたのは、ここ数年の事だ。まさかこんな若い子と、この意識を共有する事になろうとは。

進学する大学は北のほうにあるらしく、僕の事務所からもそれなりに近いほうだ。入学したら、またちょくちょく遊びに来れば良いと言ったら喜んでいた。15も年下の子と、バカ話だけではなく、マジメな話でもウマが合うとは。僕にとっても嬉しい誤算だ。これからは、もう子供と思わずに話をしていこうと思う。ひょっとしたら、僕のほうが教えて貰う事が多くなるかもしれない。

そうそう、「トイレが綺麗なお店は良いお店」と言ったのにも驚いた。商売人の娘とかならともかく、一般的な家庭の高校生でそんな事に気付く子、居るだろうか。

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