- 2014-03-08 (土) 0:40
- 日常
リストの中にその名前を見つけた瞬間、声を上げそうになった。『TPM.CO SOFT WORKS』さん(C-10-a / E-14)が居る。知る人ぞ知る伝説の投稿者さんが、BitSummitにやってくる。
小学2年生の頃。発売から1年経っても大人気のファミコンを尻目に、我が家にやって来たのはテレビに繋げるホームパソコン・MSX2(Panasonic FS-A1mk2)だった。「ゲームソフト買ったらそればっかやってアホになるから買わん」という親の方針の元、図書館でゲームプログラミングの本を漁る毎日。じき、とある雑誌と運命的な出会いを果たす事になる。徳間書店の『MSX・FAN』だ。
ファミマガの兄弟誌でもあるこの雑誌、MSXのゲーム情報なども満載なんだけども、何といっても一番人気は読者投稿プログラムコーナー『ファンダム』だった。毎月10本前後のアマチュア投稿プログラムが採用・掲載され、採用者には自分のゲームが入ったROMカセットが送られてくるという夢のようなコーナー。採用されたプログラムはどれも輝いて見え、僕ら兄弟はこぞって入力したものだ。遊ぶために入力をする、それは僕らにとって当たり前の行為だった。後期になったらオマケディスクがついて、打ち込む必要も無くなっちゃったけどね。MSX・FANを買ったら、まずはここをチェックした人も多かっただろう。
投稿コーナーと言えば、当然常連投稿者がいる。小粋なミニゲームを連発したり、投稿プログラムとは思えないほどハイクオリティなゲームをリリースしたり。常連投稿者さんはみなユニークで憧れの的だった。Beta.Kさん、Nu~さん、木内ヤスシさん、TEIJIROさん、GENさん、EMGVT-HALT9918さん、Romiさん、HIDEYUKIさん、NAGI-P SOFTさん、YAX-Zipさん、SILVER SNAILさん、OZOさん、川本健二さん、米屋のチャチャチャさん…彼らの名前を見るだけで興奮したものだ。そして。
TPM.CO SOFT WORKS、東郷 生志さん。MSX・FANを購読していてこの名前を知らない人は居ないだろう。一貫してMSX1向けのゲームを作り続け、『まものクエスト』以降とんでもない超大作をリリースし続けた伝説の投稿者さんだ。上記の『GREY COLLEAGUE』を見た時は顎が外れるかと思った。これ、MSX1のRAM32kで動いてんですよ。TurboRでも2+でもなく、MSX1ですよ。何で全方位に1ドットスクロールしてんですかね。しかもこのゲーム、物凄く面白くて。ハンパ無い技術力+ハンパ無い面白さ。TPM.COさんは僕らにとって、神様のような存在だった。
その伝説の人が、どういう訳か目の前に居る。1988年7月号に掲載された『DULVERS』でその存在を知ってから、実に26年。僕らがMSXから離れていった後も、東郷さんはMSX1でゲームを作り続けていた。ブースに置かれた3台のノートPCではエミュレータが動き、右端にはあろうことか実機の、それも2台のFDDが搭載されているという激レアMSX2『SONY HB-F900』が設置されている(上のMacはモニタ替わり)。それらの中で動き回るはTPM.CO最新作の『SRC-RPG(サラチRPG)』。MSX1の32kで、普通に拡大縮小表現が行われている。全くもって意味が解らない。
「今の所、これが最速、これが限界ですね」と話す東郷さん。「PCGをリアルタイムに書き換えて拡大縮小表現してるんですが、奇数倍だとどうしても端数が出ちゃうじゃないですか?そこの処理がキモでして…」、目の前で動いているものがあまりに現実離れしていてボケた質問をする僕。これ、turboRの高速モードじゃないですよね?「勿論ですよ、MSX1で動かないと意味無いじゃないですか」、ですよね、失礼しました。すると東郷さん、笑いながら拡大処理中にctrl+stop。文字化けした『Break in xxx』が表示された。SCREEN1だ、BASIC上で動いてる。僕は声にならない声を上げ、うずくまった。勿論中身はほぼマシン語で作られてるんだけども、この衝撃を、一体僕はどう表現すれば良いのか。
ブース内には『GRAY GROFA』と『タロティカ・ブードゥー』も展示されていた。技術詳細書(タロティカ・ブードゥーは2DDフロッピーのゲーム本体付き!)も販売されていたので即購入。「まさかBitSummitで売れると思わなかったんで、ちょっとしか持って来てないんですよ、さっきも買って下さった方が」と東郷さんは驚かれていた。後でサミエルさんに聞いたところ、「俺らも技術書買ったよ!」と良い笑顔。「そういやさ、これ2DDでしょ?2HDじゃなくて2DD…何処で調達したんですかって尋ねたら、無くなりそうになった数年前に段ボール5ケース仕入れた、って」、何ですって。ならむらさんは「NIGOROさんのこと尊敬してますって言われたけど、逆だよ逆、大先輩だよ」と苦笑していた。
「MSX1で出来る事って、まだまだあると思うんですよね」、真剣な顔で話す東郷さん。Z80の可能性ですか、と尋ねたら、「いや、VDPですね」と。なるほど、そこまでやりますか。東郷さんは心の底からMSXが好きなんだ。もうホントに嬉しくて嬉しくて、ミーハーで申し訳ないのですが当時の雑誌にサインを頂いた。僕ら兄弟(まものクエストIIは兄が入力したっけ)が入力した痕跡を見せると、東郷さんはとても喜んで下さった。いやいや、お礼を言うのは僕らのほうです。MSX・FANのお陰で、ファンダムのお陰で、僕らはここに居るんです。お会い出来て良かった。MSXが好きで本当に良かった。この後、兄も東郷さんに会う事が出来たようで、大層喜んでいた。
そしてMSX・FAN伝説の投稿者TPM.CO SOFT WORKSさん(E-14)。今なおMSXの限界を追い求められています。MSX1のSCREEN1で拡大縮小って何事… http://t.co/cd4aEPWm45 … #BitSummit
— Shuhei Miyazawa (@room_909) 2014, 3月 7
その後場内を歩き回り、何度もTPM.COさんのブースを訪れたんだけども、そのたび必ず遊んでいる人が居たのが嬉しかった。それも一人二人ではなく、人だかりが出来ている事も。「サインして貰えますか、って結構言われましたね!」と嬉しい悲鳴の東郷さん、どうやら僕らみたいなファンダム野郎は少なくなかったようだ。BitSummit中、一番反応があったのが上記のtweetだ。MSX still alive!
余談だけれども、TPM.COさんの真後ろにOculus Riftを使った株式会社Viteiさん(C-10-b / E-13)のブースがあったのも面白かった。恐らく、会場内における最新技術と最古技術が背中合わせだったんだから。ちょっと離れた所にはファミコン実機を持ち込んでるRIKIさん(C-06 / E-05)も居られて、僕の中ではBitSummitで一番アツい場所だった。