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2013-03-02
エリックさんと天谷君
- 2013-03-02 (土)
- 日常
エリック・シャイー氏が京都で講演を行う、そんな話をA君こと天谷君から聞いたのは先月の事。エリック氏と言えば『アウターワールド(原題Another World)』の作者で有名な、伝説のフランス人ゲームクリエイターだ。1991年、当時としては類を見ないフルポリゴンで作り上げられたこのゲームは、その画期的な技術力と映像美、そして悪夢のような難度で世界中の話題をさらった。しかも驚くべきことに、氏はたった一人でこのゲームを作り上げたのだ。当時はポリゴンのレンダリングツールすら無かった時代、エリック氏はそのツールを作ることろから始めたという。しかし天谷君、また何で急にそんな話を。
「いや、実は…そのエリックさんの討論会に呼ばれちゃって…」
ぎゃあ。何と、エリック氏が招かれるイベントに、パネリストとして天谷君が登壇するらしい。場所は旧日仏会館であるアンスティチュ・フランセ関西。フランス領事館があるとこじゃないすか。フランスが国をあげてるイベントじゃないすか。大丈夫か、ホンマ大丈夫か天谷君。「正直、かなり緊張してる…」、あああ。そりゃそうよなあ。同じ個人でゲームを作り上げた人間とはいえ、相手は伝説の人ですよ。ちなみに天谷君のプロフィールはこちらをどうぞ。
で、聞けば当日はメディアが来る予定が無いそうで、カメラマンも居ないとの事。それじゃ勿体ないから撮影に行こうかと話を振ってみたら、そのまま先方まで通っちゃってオフィシャルカメラマンになってしまった。たった一人の公式記録員。責任重大、いつも以上に装備を固めて、いざアンスティチュ・フランセ関西へ。
はい居ました。天谷君の隣にエリックさん居ました。解ってた事とはいえ、半笑いになる。見た事の無いツーショットですよ。開演時間ギリギリまで打ち合わせ(同時通訳向けの専門用語対策など)を行うそうで、すぐ傍に会ったソファで待機。うわー落ち着かんわ。Nikon D7000の設定を見直しながら時間が過ぎるのを待っていると、イベントを見に来たお客さんぽい男性がやってきた。何気なくお話をさせて貰うと、Onion Gamesの木村祥朗さんでした。ぎゃあ。木村さんはとても気さくな方で、学生時代はこの辺りを通っていたので懐かしいですよと笑っていた。何と今日は東京からの参戦だそうだ。カバンにはSFC版アウターワールドが忍んでいる模様。
まだ少し時間があるという事で、撮影準備の為に会場内へ入らせて貰う事に。当然のようにフランス人のスタッフさんが出て来て腰が引けるも、ハンパ無く流暢な日本語で安心する。日本は長いんですかと尋ねたら、「ちょうど2年くらいですね、日本語を勉強をしはじめたのもそれくらいです」と。2年でそんな喋れるモンなんですか…他のフランス人スタッフさんと話す時は、当たり前だがフランス語に切り替わる。聞いててもサッパリ解らん。英語なら単語を聞いて何となく理解出来そうなものだが、フランス語で知ってる言葉ってボンジュールとジュテームくらいのもんだ。今フランス行ったら泣くわ僕。半ば棒立ちでやり取りと聞いてたら、フランス語からクロスフェードしながら日本語に切り替わって僕に話し掛けられていた。未知の体験。ちなみに照明スタッフさんは日本人でした。最初フランス語で話してたから解らんかった。
撮影準備完了。録音はiPhoneで行う。会場は100名ほどが入れる小さなホールだった。しばらくして開場、「やっぱり居ると思いましたよ」と良い笑顔を浮かべながら、天谷君の師匠である@nao_uさんが来てくれた。生粋の技術屋であるnaoさん、相当楽しみにしていたようだ。開演前にはほぼ満席となっていたこのイベント、無料とはいえかなりの盛況ぶりでスタッフさんも驚いていた。時間になり、打ち合わせテーブルからダイレクトに入場する出演者さん。モデレーターは矢野経済研究所の朴澤理子さん、パネリストは我らが天谷大輔、スターフォックス64などを手掛けているQ-Gamesのジェローム・リアー氏、京都造形芸術大学 准教授で元スクウェア・エニックスで企画・デザイナーをされていた村上聡氏。そして、主役のエリック・シャイー氏。
会が始まると同時に、全員配られたにイヤホンを付ける。最初にもチラッと書いていたのだが、このイベント、同時通訳付きなのだ。日→仏、仏→日の2パターンを、それぞれの通訳さんが同時通訳する(お客さんの中にはフランス人も結構居られた)。これが人生初めての同時通訳となる僕、興奮を隠せなかったんだけども録音どうすんの。生音拾ってたら通訳拾えんし、通訳拾ってたら生音拾えんし。仕方ないので、生音を拾って翻訳は気合で書きとめる事にした。まあ、無茶やったんですけどね。暗い中、撮影しながらのメモは困難を極め、結局大半が記録出来なかった。どなたかフランス語翻訳をお願い出来ませんか。肝心のエリック氏の発言、全然拾えていないので。
それにしても天谷君ガチガチ過ぎる。かつてない緊張具合。ハラハラして見てたら、緊張をほぐす為かエリックさんが無線受信機を片手に「ほーら携帯電話だよー」というボケを披露。しかし天谷大輔、これをスルー。まるでこの世のすべてが終わったかのような沈鬱な表情を浮かべ、全く気付く気配が無い。思わずダイスケェ!と叫びそうになった。今、真横で、伝説の人がボケてくれてるんやぞと。見てるこっちが心臓に悪いわ。その後の自己紹介で、きょう天谷君が呼ばれたのはエリックさんのリクエストだった事が判明。もっと慌てる天谷君。うわあ。
以下、討論会の内容を小出しに。
エリックさん。アウターワールドは2年かけて個人開発したもので、計画性は無く、即興の連続によって作られたゲームだという。近年流行りつつあるインディーズというスタイルについてどう思いますかという質問に、「80年代の頃は、何処もかしこもインディーズだらけでしたよね」と答えられたのには今更ながらハッとさせられた。言われてみれば日本のゲーム企業も、スタート地点は個人開発(インディーズ)という所が多かった筈だ。今現在、エリックさんは再び個人開発を進めているという。
洞窟物語はクリアしましたかという質問に、「難しくてクリア出来なかったです、でも洞窟物語は大好き」と。天谷君平謝り。その天谷君も「アウターワールド、難しくてクリア出来ませんでした、スイマセン…」と話し、自分から謝っていた。何か面白い。
村上さん。ゲーム会社に居た頃を振り返り、「組織が大きくなると、とにかく収益第一の企画しか通らなかったですね」「その点インディーズは自由で、強い魅力があるんだけれども、相当勉強を重ねないと成り立たないのでは」と。「今はソーシャル全盛期でコンシューマが隅に追いやられている状態だけれども、コンシューマ陣も黙ってはいないです」「コピー製品だらけのソーシャルだけども地場は固まってきたので、これからは技術力を誇示した、尖ったゲームが出てくるのでは」「企業で技術を高めた人達が、インディーズという形で表に出てくる事もあるんじゃないですかね」という話もされていた。
天谷君。最初はテンパっていたけど徐々に自分を取り戻していた。「古いゲームスタイルを貫いているのには幾つか理由があって、ドット絵が大好きだという事、すぐ描けるから時間的なコストがかからない事、ファミコンの3和音PSGが大好きという事、マシンパワーのお陰で僕の下手なプログラムでもサクサク動いてくれる事、これらの巡り合わせで今がある」と語る。
「昔、ゲームはゲーマーの為に作られていたんだけれども、今はユーザーを確保する事ばかり先行してしまって…ゲームをやらない層をいかに取り込むかを考えた結果、本来ゲームをしない人の為のゲームばかりになっている」「アウターワールドのエンディング観て、やっぱりゲームって誰かの為に作るもんなんじゃなくって、自分が持っていた小さな世界…まるで子供の夢のような世界をバーンと叩きつける感じが…ゲームって良いなって思いました」、なるほど天谷君らしい表現。
ジェロームさん。「フランス人は長時間働かない事で有名で、週35時間労働制という法制度がある」「これのせいで、僕らIT系の会社員は長時間働く事が出来無いし、スキルアップも望めない」「もっと勉強したい、働きたいというと変人扱いされる」「フランスは仕事人に対して偏見を持つんです、だから昼夜を問わず仕事が出来る日本にやってきたんです…悪く言ってごめんねフランスのみんな」と話して笑いが起こっていた。国が違えば社会も全然違うんやなあ。
プラットフォームの話。天谷君は「開発しやすい、検証しやすい、売りやすい、買って貰いやすい」という理由でiPhoneをプラットフォームとし、エリックさんは「プラットフォームは考えず、まずコンテンツを作る、コンテンツが重要」と。自分の作りたいものがあって、それを実現する為ならどんなプラットフォームでも良いと。コンテンツありきと、プラットフォームありきの違い。興味深い話だ。ただ、二人は共通して「ゲームを作りながらストーリーを考える」と答えていた。
マーケティングの話。エリックさんは「私は特にマーケティングを必要としないし、ターゲットも決めなかった」「それを考えたり決めてしまったりすると、自分自身のゲームでは無くなってしまう」と話す。「From Dustの時はどうだったんですか?」という天谷君の質問に、「Ubisoftさんが、今までに無いような斬新なソフトを求めていたので、そこに持ち込みました」と。ええー、かなり意外な話だ。「エリックさんは絵を描くようにゲームを作っていると感じますね、絵を描くときに誰の為に描くなんて考えないじゃないですか」「村上さんはターゲットを絞ってゲームを作り、エリックさんはターゲットを決めない…ひょっとしたら僕は、二人の中間に居るのかも」と天谷君。
想像の余地の話。村上さん、「RPGのシリーズものなんかで、昔のほうが面白かったという苦情がちょくちょく来るんですけど、これは恐らくドット絵のほうが想像の余地があったからじゃないかと」「技術としては未熟だったけど、出来るだけモノを省いた中で、どうやってプレーヤーに想像させるかを考えていたと思うんですよ」「今は表現しきってしまうので、主人公とプレーヤーの間に一枚のフィルターがある…入り込めなくなっている」と話す。そこに天谷君、「これは聞いた話なんですけど、ピーチ姫なんかはドット絵で描いた方が、各々が自分好みの美しいお姫様をイメージ(補完)出来るんですよね、結果文句が出ない…ところがこれがリアルで細部まで表現されると、好みが分かれて文句が出ちゃう、その点に関して3Dは不幸かなと」、と付け加えた。なるほど。
ゲームとは何か、という難しい話。以下、天谷君の独壇場。「ゲームって何かと言われると、エンターテイナーだと思うんですよ」「絵なら完成したものが変化する事は無いんですけども、ゲームならそこにプレーヤーが介入し、アクションに対してレスポンスがある…そこに人格があると思うんですよね」「ゲームによって相手を喜ばせたり怖がらせたりする、それはゲーム開発者とプレイヤーのコミュニケーションだと思うんですよ」「芸術というと、完成された単品のものを想像してしまうので、ゲームを芸術と言うのは少し違うかなと」「お金を目的としている人も居れば、表現したいものを追求する人も居て、反応を見て何が喜ばれるのかを考える人も居る…それぞれがエンターテイナーだと思うんですよ」
「エリックさんが使っていた『反復』という言葉は、ゲームの大きな魅力だと思います」「自分の作った音や絵を、何度も見て貰う方法は無いか…例えば曲を単体で出してみても、反応が薄くリピートして貰えない事が多いんだけども、これをゲームのBGMとする事で何度も聴いて貰えるし、そこで楽しい思いをして貰えれば音楽自体を好きになって、更には曲を聴くだけでゲームの楽しい思い出が蘇ってくる」「反復を上手く使う事でプレーヤーを自分の世界に引っ張る事が出来るので、ゲームというものは表現者にとって素晴らしく良いメディアだと思います」
「ゲームで一番大切なのは体感だと思うんですよ、何を感じるか…エリックさんのアウターワールドは、まさに体感を元にして作ったんですよね?」という天谷君の質問にエリックさん「はい(日本語)」と答え爆笑。
「僕がレトロスタイルに固執する理由…初期のドラクエやファイナルファンタジーのように、小さなドット絵や3音のPSGでも感動を覚える事が出来たんですよ」「これからのゲームはどんどん表現力が豊かになって、宇宙旅行に行ったかのような体感をさせてくれるかもしれない…けど僕は既に、ファミコンのメトロイドをプレイした時にその感覚を覚えているんですよ」「映画映像がどれだけ発展しても小説というものが残るように、レトロスタイルというずっと使える表現方法で、何か感動を与え続ける事が出来たらと思っています」「プレイヤーの想像力を信じてモノづくりを出来たら面白いです」
拾いきれたのはこれくらい。その後、質疑応答があって無事に閉幕。それにしても長時間の同時通訳というのは脳に負担がかかりますね、とnaoさんと笑っていた。一番大変なのは通訳さんだろうけども。本当にお疲れ様でした。イヤホンを返して表に出たら何と立食パーティの準備が。これ、無料のイベントですよね。ビールまで置いてあるんですけど、良いんですか。iOS版のアウターワールドも用意されていて、小さいお子さんが早速遊んでいたけど大丈夫か。あまりの難度にトラウマになったりせんか。
立食パーティでは更に多くの出会いがあった。一人は一昨年お台場で開催された『洞窟物語のウラガワ』の参加者、はしもと (Lv.27)さん。個人的にtwitterで交流があったんだけれども、まさか去年から神戸で働かれているとは。てっきり関東に居られると思っていたのでメチャクチャ驚いた。naoさんと天谷君を引っ張って来てご挨拶。沢山話が出来たようで本当に良かった。そしてもう一人が、ジョセフ・ルドンさん。お名前に聞き覚えがあると思ったら、ゲーム保存協会の理事長さんじゃないですか。あまりに日本のゲームが好き過ぎて海を渡ってきたフランスの方で、普通に新聞でも取り上げられているゲーマーの鏡とも言うべき方だ。聞けばフランスでは日本のゲームが爆発的に普及しており、アメリカなどより日本のゲーム事情に詳しい人が多いとの事。レトロハード話でメチャクチャ盛り上がった。まさかフランスの人とPC-88やMSXの話で盛り上がるとは。西陣織とレガシーハードの話も興味深かった。また、こちらのスタッフさんで同じくフランス人の留学生さんとも話をした所、やはりフランスでは日本のゲームが流行っているとの事。僕も日本のゲーム大好きなんですよ!と力強く語ってくれた。今日一日で、エラいフランスという国に親近感が湧いた気がする。ゲームだけでなく、もっと色んな話を聞いてみたいなあ。
会が終わっても盛り上がりは一向に収まらず、結局閉館時間まで喋りっぱなし。スタッフさんにせかされ外へ出る間際、記念にと出演者さんの写真を撮影した。ここで僕、とうとう我慢出来なくなってエリックさんに一緒に写真をと願い出てしまった。エリックさん快諾、naoさんにカメラをお願いすると、エリックさんからガッチリ握手して下さった。脳が爆ぜそうになって、上手く表情が作れない。そこにnaoさん、上手くシャッターが切れない。周りは爆笑、僕ずっとエリックさんと握手しっぱなし。もうダメ、顔から火が出る。三度目のハイチーズにて、ようやく撮影が完了した。有難うございました、有難うございました。
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