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ちょっと待っての連続攻撃

「で、ボレロの前奏をお願いしたいんですけど」

ライブ前のリハ中に、アンサンブル・テオフィールのフルーティスト、左川さんが突如恐ろしい事を言ってきた。何をおっしゃられているのやら、僕は生まれてこの方ジャズしかやったこと無い上に、左手はコードしか弾いた事が無い欠陥アマチュアピアノ野郎ですよ。

今日はウチの店で彼女らのライブをやるんだけども、それに当たってオープニングのボレロの前奏をやれと。それに合わせて一人ずつ出て来てアンサンブルするからと。「大丈夫、一定のテンポでド・ソ・ソ、ド・ソ・ソソを繰り返すだけですから」、いやいや、一定のテンポて「メトロノーム有りで良いですから」えええええ。取り敢えずその場で一度練習したんだけども、メチャクチャ緊張するわこれ。安全を期すために、左手ではなく右手を使う僕。左手、そんな動かんからね。

かくして本番の時間となった。僕がピアノを触るなんて、お客さんどころかオカンすら知らないサプライズだ。というか、僕は店のお客さんの前でピアノなんか弾いた事が無い。PAの調節を装いながら舞台へ上がり、おもむろにiPhoneのメトロノームを再生。簡単なだけあって、ミスったら思いっきりバレてしまう。慎重に、慎重に…

何ループか弾いている内に、ようやくトップバッターの左川さんがやって来た。これで音が増えて、ちょっとは誤魔化しが効くな…とメトロノームに目をやると、あれ、僕ハシってる。小さくリズム音を刻んでいるメトロノームは、明らかに僕のテンポよりゆっくりだ。マズい、テンポがキープ出来ない。どうする。ええい、こうなったら今のテンポを左川さんに引き継いで貰って、メトロノームは切る。空いた右手で、素早くiPhoneのメトロノームを停止させた。これで頑張るしかない。

…空いた、右手?

そう、この段階でようやく気が付いた。リハで安全を期すために右手を使うと決めたのに、今、僕は左手で伴奏を弾いている。全身から油汗が噴き出した。緊張し過ぎて、左手を使っている事に全く気が付かなかったのだ。もうここから右手に変える事は出来ない。フルートのリズムと鍵盤だけに集中して、やり過ごす事だけを念頭に弾き続けた。

バイオリニストのYちゃんこと田久保さん、サキソフォニストの古川君が登場、これで最後はピアニストの植田さんを待つだけだ。早く、早く交代を。ようやく最後の植田さんが到着、これで僕は解放「折角だから、連弾しましょうか」ちょっと何を言ってるの。僕もういっぱいいっぱい「お願いしますね」ああもうどうとでもなれ。

結局そのままエンディング近くまでルートを弾き続ける事になり、解放された時にはシャツが少しぐっしょりする程に汗をかいていた。ジャズバーの発表会でもこんなになった事は無い。今年1、2を争う恐ろしさだった。ライブが終わってから事情を話すと、アンサンブル・テオフィールの4人は爆笑していた。ライブは大盛況だった。

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