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僕の知らない祖父の話

  • 2011-12-10 (土) 0:30
  • 日常

一日マスターも随分板についてきた。今日はやたらに寒いので、お客さんも少な目だ。合間合間に自分の仕事をしながら接客をする。そこへご来店頂いたのが、僕の父方の祖父と長らく仕事を共にした、天文のA先生。A先生は現役の小学校教諭でもある。たまたま今日は皆既月食と言う事もあり、折角なので色々と聞いてみたのだが、そこから意外な話を耳にした。祖父の話だ。

僕の祖父は、僕が5歳の頃に癌で他界した。記憶に残っているのは、微笑みながらロッキングチェアでゆらゆら揺れている姿、それくらいだった。オトンからも「酒癖が悪かった」くらいしか聞かされていない。祖父は、天文学者だった。

自宅に残されていたのは、数えきれないくらいのレンズと望遠鏡、見た事も無いような難しい数式ばかり書かれている専門書、多機能ながら結果が出るまでに数秒かかる電卓などなど。意味は解らないけど、何だか興奮するようなものばかり揃っていた。僕が初めてコンピュータの世界に触れた『NHK マイコン入門 57年度』もここで発見している。

A先生は、学生時代に苦労して貯めたお金で祖父から望遠鏡を買った話をしてくれた。祖父は学者でもあり、職人でもあった。何と、一から望遠鏡を作り上げるのだ。ものの無かった時代、それこそ血の滲むような努力や苦労を積み重ねて作り上げたであろう望遠鏡。売り物として作った望遠鏡も、息子のように大事に取り扱っていたとの事だった。

物心ついて、祖父の仕事を理解した時には既に長い年月が過ぎていた。今、こうやって僕も技術者の端くれとして生きている。あのマイコンの本があったお陰で、今こうやってコンピュータで仕事してるんよ、なんて話がしてみたかった。技術者や職人としての話を聞いてみたかった。A先生の話を聞きながら、ずっとそんな事ばかり考えていた。

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