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超本格茶道を体験

事の始まりは、叔母からのお誘いだった。締切が3つ重なるという修羅場で朦朧とする中、「ウチの子(従兄妹のAちゃん)が平安神宮へお茶しに行くんやけど、一緒に行く予定やった友達が行けんようになったらしいんよ、どう?」と質問され、何も考えられず行きます、と。

ここまでは順調だった。

「ちょっと格が高いらしいけど、カッターシャツにネクタイくらいで良いから」とだけ言われ、その程度のやや軽い気持ちでいた僕。「お茶終わったら、一緒にご飯食べて来たらええやん」とオカンに言われ、適当な準備をしていた僕。懐紙(茶菓子を載せる紙)を持たされ、靴下は中学校以来の白を着用。何だこの恥ずかしさは。

当日朝は天気が良く、若干早く目が覚めたので庭の木に水なぞやっていたら、バスに一本乗り遅れた。幸い待ち合わせの9時15分には間に合いそうだ。念の為、従兄妹のAちゃんへメールをしてみたら、『もう着いてて先生も一緒に居る』という恐ろしい返事が返ってきた。てかちょっと待って、何故先生も一緒に居る。2人で行くんじゃなかったのか。時間ぴったりには着いたものの、平謝りで挨拶。そこに居たのは、Aちゃんがいつも習っているというK先生と、そのお友達だった。2人ともバリバリのお茶室用着物。この辺りから何かしらの違和感を感じ始める僕。

ちなみに懐紙は未だに大丸の包装紙に包まれた状態だ。オカンは「これ全部胸ポケットに入れんねん」と言っていたが、サイズ的にも量的にも入らず、Aちゃんに聞こうと思ってそのまま持ってきたのだ。だが、その機会は無くなったに等しい。嫌な汗が出始めた。

かくして4人は平安神宮へ。正門前にかかった看板を見て血の気が引いた。『大前献茶式 裏千家…』、つまり、バリバリの本格的お茶会、それも『孝明天皇御鎮座七十年大祭』とか言うイベント付き。受付を見渡すと、着物を着たお茶会のツワモノ達がウヨウヨしているではないか。パンフを見たら、貴賓館でお茶するとか書いてある。冗談だと言ってくれ。とんでもない所に来てしまった。

中へ入ると、まずは孝明天皇のイベントが本殿にて始まった。予備知識ゼロの僕、口をポカーンと開けて祈祷やら舞踊やら西洋っぽい歌(!)を見ていた。10時スタートのイベントだが、時刻は既に12時を過ぎている。何もかもが聞いた話と違う。どうしよう、仕事結構残ってるのに。

ようやくイベントも終わり、庭園へ移動(誘導看板が一切無く、敷地内を歩き回った)。聞けば、今日は3回もお茶を飲むらしく、『本席』、『副席』、『拝服席』と3つの会場が用意されていた。それぞれかなりランクが違うそうで、Aちゃんが「いわゆる金、銀、銅みたいな…」と言って先生が笑っていた。フォローするつもりで僕が、松竹梅みたいなモンですよねと尋ねたら、先生が爆笑した。何がマズかったのか。

中で撮影するのに勇気がいったので、外。

ともかくまずは1杯目、一番気軽な『拝服席』。記念殿という綺麗な建物に通された。大きな広間にテーブルと椅子が置かれおり、座っていたら茶菓子とお茶がやってくるというものだ。すきっ腹に緑茶という、出来れば避けたいコンビネーション。事前に配られたのは落雁だったが、人生で一番美味しいと思えた落雁だった。お茶は思ったほど濃くなく、Aちゃんの動作を真似ながら見事にクリア。恐らく、問題は次からだろう。

次は『副席』、勅使館。見るからに畳で、本格的な茶道の雰囲気がイヤというほど漂ってくる。もはや懐紙がどうこうというレベルでは無い。整理券を貰ったら、300番台の数字が。ただいまの待ち人数、100名弱。眩暈がした。待ち時間が勿体無いという事で、先に点心席でお昼を頂く事に。美味しいお弁当が出て、ようやく一息と言った所か。

庭園を散歩なぞしつつ待っていると、案外早く副席の出番が回ってきた。待合席に通される我々。ここで重要な事を思い出した。僕、右膝がおかしくなっている。先日ダッシュでお客さんを追いかけた日から、曲げると皿の辺りが恐ろしく痛いのだ。当然、正座なんぞしようもんなら。「待合では足を崩しててええよ」とAちゃんは言ってくれるが、周りのご婦人たちは全員正座だし。ただでさえ目立ってる(平日昼間に若い男が茶に来るなんて珍しい)のに、ここで三角座りなんかしようもんなら。

もうこれ以外に手は無かったんです。

3分後、正座のご婦人に囲まれて三角座りをする僕が居た。

が、地獄は中に入ってからだった。30人近く座れるお座敷だったのだが、何故かお茶を点てる席の隣がずっと空いたままだ。ボーッと見ていたら、いきなり後ろから番頭さんみたいなスタッフに「若い男やから前いかにゃアカンよ」などと言われ、立ち上がらされそうになった。瞬間、僕の脳が最大級のエマージエンシーコールを打ち鳴らし始めた。何だか解らないが、あそこへは絶対行ってはいけない…生存本能のようなものが、僕を必死に押しとどめている。隣を見れば、引き攣った顔のAちゃんと先生方。嗚呼やっぱりあそこには何かがあるんだ。「男なんやからハッキリせにゃ」と促されたが、ハッキリお断りしますとタートルガードで必死に抵抗、難を逃れた。膝の痛みはすっかり忘れ去っていた。

程無く2回目のお茶がスタート、今度は紛う事無き茶道スタイルだ。人数は多いが、これぞテレビなんかで良く見かける超本格茶道。すると、僕が引っ張られかけた、あの席に座ったご婦人が、お茶を点てる人と会話をしだした。それも、器やお茶自体に関するハイレベル専門トークだ。後で知ったのだが、あの席は『お正客』と言い、茶を振舞われるほうの代表として、そつなくお茶の話をしなければならない席なのだそうだ。危うく放送事故だぞこれは。あの番頭、僕をハメる気だったのか。命が幾つあっても足りないぞ茶道。席が終わってから「タダでさえ男は目を付けられるんやし、絶対に目を合わせちゃダメ」みたいに先生方に怒られた。どんな世界だ。

怖いよー、怖いよー。

何とか無事に勅使館から脱出した僕だったが、更に衝撃的な事実をAちゃんに告げられた。「本席は『濃茶(こいちゃ)』が出る、相当ハイレベルな茶席みたい」と。最初聞き間違えて、『紅茶』が出てくるものだと思い、それはそれでハイレベルだろうなあと思っていたが、『濃茶』とはそのまんま、ドロドロに濃い緑茶を3人チームで回し飲みするというものらしい。知らないぞそんなの。

かくして、御庭が抜群に良く見える『貴賓館』へ。こんな機会でも無ければ絶対入る事も無いだろう、素晴らしい作りの建物だが今はそれ所ではない。オカンから懐紙だけ持って行けと言われていた僕、黒文字を先生に借りて茶菓子を頂く。もう何もかもが信じられない。いよいよ最終戦の開始だ。通されたのは、時代劇かと見紛うほどの超ハイレベルな和室だった。誰か助けて。

あまりの豪華さに目を奪われボーッとしていたら、隣でAちゃんが焦っていた。僕が先生の動きを見ていないから、トレース出来ないのではと思ってくれたらしい。意図に気付いた僕、慌てて先生を見る。何となくやる事は理解出来たが、お茶がヤバい。カルピスの原液よりドロドロだ。こんなもん飲む前からヤバいって解るわ。覚悟を決め、それでは頂きます。

口に含んだ瞬間、イメージをも遥かに上回る濃さが脳天を直撃。ヤバい、このままでは確実にムセる。こんな静かな場でムセたら、『この無礼者、先生を愚弄するか』と刀を抜かれ、手打ちにされる事間違い無しだ。極力平静を装い、一端飲むふりをしてから、ほんの少しずつ飲み込む。が、一口以上はもう無理だ。涙目になりながら茶碗を戻し、隣のAちゃんへ渡す。3人分用意されていたお茶は結局、先生1:僕0.2:Aちゃん1.8という地獄の様な配分で振舞われる事となった。ごめん、ごめんよAちゃん。それでも飲み干したAちゃんは偉い。流石僕の従姉弟だ。

全てのイベントが終わったのは16時前。身も心もボロボロにされ、茶道の恐ろしさをこれでもかと味わってしまった僕。これから僕、仕事があるんですけど、大丈夫でしょうか。

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